AGA治療薬であるフィナステリド(プロペシア)は、その高い有効性と安全性から、世界中で多くの男性に使用されています。ほとんどの人は、大きな問題なくその恩恵を受けていますが、ごく一部で、薬の服用を中止した後も、性機能の低下や、精神的な不調が持続するという、深刻な症状が報告されています。これが、近年、議論を呼んでいる「ポストフィナステリド症候群(PFS)」です。PFSの主な症状としては、性欲の持続的な減退、勃起不全(ED)、射精障害、そして抑うつ、不安感、記憶力や集中力の低下(ブレインフォグ)といった、身体的および精神的な不調が挙げられます。問題なのは、これらの症状が、薬の服用を「中止した後」も、数ヶ月から数年、あるいはそれ以上にわたって改善しない、と訴える患者がいる点です。なぜこのような現象が起こるのか、その詳細なメカニズムは、現時点では医学的に完全には解明されていません。フィナステリドが作用する5αリダクターゼや、それが作り出す神経ステロイドなどが、脳機能や神経系に、これまで知られていなかった長期的な影響を及ぼすのではないか、という仮説が立てられていますが、まだ研究段階です。ここで非常に重要なのは、PFSは、医学界において、まだ確立された疾患概念ではない、ということです。その存在を疑問視する専門家も多く、症状の因果関係や発症頻度についても、明確なデータはありません。報告されている症例が、本当にフィナステリドだけが原因なのか、あるいは他の心理的な要因や、もともと持っていた疾患が関わっているのか、判別が非常に困難なのです。しかし、このような症状を訴える患者が、世界中に少数ながら存在することは事実です。AGA治療を始めるにあたっては、PFSという、まだ未解明なリスクが存在する可能性も、知識として頭の片隅に置いておくべきかもしれません。そして、万が一、服用中や服用中止後に、説明された以外の、原因不明の体調不良が続く場合は、速やかに医師に相談することが何よりも重要です。