基本的なヘアサイクルのメカニズム、すなわち「成長期」「退行期」「休止期」という3つの段階を経るという点は男女共通です。しかし、女性のヘアサイクルにおいて特に重要な役割を果たすのが、女性ホルモン、中でもエストロゲン(卵胞ホルモン)です。エストロゲンは、髪の成長期を持続させ、髪の太さやハリ、コシ、そしてツヤを保つ働きがあります。エストロゲンの分泌が活発な時期は、髪が健康に育ちやすく、抜けにくい状態と言えます。一方、男性ホルモンであるアンドロゲンも女性の体内には少量ながら存在しており、このアンドロゲンが何らかの理由で過剰になったり、女性ホルモンとのバランスが崩れたりすると、ヘアサイクルに悪影響を及ぼし、薄毛の原因となることがあります。男性の薄毛、特にAGA(男性型脱毛症)の主な原因となるのは、テストステロンが変換されたDHT(ジヒドロテストステロン)です。男性の場合、DHTの影響で前頭部や頭頂部の髪の成長期が著しく短縮され、特徴的なパターンで薄毛が進行します。女性の場合、DHTに対する感受性は男性ほど高くなく、また、副腎や卵巣で産生されるアンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼという酵素の働きも活発であるため、男性のようなM字型やO字型の典型的な薄毛になることは比較的稀です。女性の薄毛は、頭部全体がびまん性、つまり広範囲にわたって均一に薄くなる「びまん性脱毛症」や、分け目が徐々に広がり、地肌が透けて見えるようになる「女性男性型脱毛症(FAGA)」といったパターンが多いのが特徴です。女性のヘアサイクルは、ライフステージにおけるホルモンバランスの劇的な変動によっても大きな影響を受けます。例えば、妊娠中はエストロゲンの分泌量が著しく増加するため、髪の成長期が延長され、通常よりも抜け毛が減る傾向があります。しかし、出産後はエストロゲン濃度が急激に低下するため、成長期にあった多くの髪が一斉に休止期へと移行し、「産後脱毛症」と呼ばれる一時的な抜け毛の増加が見られることがあります。これは通常、半年から1年程度で自然に回復へと向かいます。また、更年期を迎えると、卵巣機能の低下に伴いエストロゲンの分泌量が大幅に減少し、相対的に男性ホルモンの影響が強まるため、髪が細くなったり、抜けやすくなったり、全体のボリュームが失われたりといった変化が現れやすくなります。
— AGA —
女性のヘアサイクル、男性との違いとホルモンの働き
2022年12月11日