僕がAGA治療を始めたのは、32歳の時だった。医師からフィナステリドとミノキシジル外用薬を処方され、希望を胸に、毎日欠かさず治療を続けた。効果は、驚くほど早く現れた。三ヶ月後には抜け毛が明らかに減り、半年後には、細かった髪にコシが出てきた。しかし、その喜びと同時に、僕は自分の体に起きた、ある小さな、しかし無視できない変化に気づいていた。それは、「性欲の低下」だった。以前に比べて、明らかに性的な関心が薄れている。パートナーとの関係にも、微妙な影を落とし始めていた。インターネットで調べると、それはフィナステリドの副作用として、稀に報告されている症状だった。「自分もその数パーセントに入ってしまったのか」。ショックだった。髪を取り戻す代わりに、男として大切なものを失ってしまうのか。僕は、治療をやめるべきか、深刻に悩んだ。一人で悩み抜いた末、僕は勇気を出して、クリニックの診察で、医師に正直に打ち明けた。恥ずかしかったが、もう背に腹は代えられなかった。僕の話を静かに聞いてくれた医師は、まず、それが薬の副作用である可能性と、一方で、仕事のストレスなど心理的な要因が関わっている可能性の両方を、丁寧に説明してくれた。そして、こう提案してくれた。「一度、薬の服用を隔日にしてみましょう。効果は少し落ちるかもしれませんが、副作用が軽減されることが多いです。それで様子を見てみませんか」。僕は、その提案を受け入れることにした。毎日飲んでいた薬を、一日おきに。すると、数週間後、以前のような感覚が、少しずつ戻ってくるのを実感できたのだ。そして、幸いなことに、抜け毛の量が再び増えることもなかった。あの時、一人で抱え込まず、正直に医師に相談して本当に良かったと、心から思う。副作用は、確かに怖い。でも、それは乗り越えられない壁ではない。専門家という頼れるパートナーと、正面から向き合う勇気さえあれば、必ず道は開けるのだと、僕は自身の経験を通じて学んだ。
私が経験したAGA治療薬の副作用と、その乗り越え方